「出版社」と聞くと、業界外の人は「バリバリ働いてるんだね」「かっこいい」「石原さとみの校閲ガールみたいな感じ?」「あ、見てたよ!重版出来」などと目を輝かせてくる人がいます。
それまでとは明らかに食いつきが変わり、やたらと質問攻めにしてくる人も。
「出版社」はやはりブランドのようなところがあったのかもしれません。おそらく漫画や書籍でよく聞く大手出版社を思い描いているのでしょう。
しかし、出版社は大手以外にもたくさんあります。
出版社は3500社以上存在。すかいらーくグループの総店舗数より多い
大小問わず、出版社というジャンルの会社は、全国に3500社あるといわれています。(ただ、2014年のデータなので古いですね。)ガストやバーミヤンを展開しているすかいらーくグループの総店舗数が3187店(2018年7月30日現在)ですから、なかなかいい勝負です。
しかし、多くの人が聞いたことのある出版社なんて、せいぜい10社あるかないかだと思います。私が所属していた出版社はまさしくそれ以外の「誰も聞いたことのないような出版社」側。だから、初めて会ったような人に職業を聞かれても、相当深く掘り下げられない限り、「普通の会社員です」と言っていました。変に勘違いされると申し訳ないので。
しかし、たくさんあるように思えるかもしれませんが、出版社は確実に減っていますし、売上もどんどん低下しています。
業界の市場(販売額)
今、出版業界は大きな変化の時期にあります。書籍や雑誌等、紙の出版物の販売額は、再販制度や委託制度に支えられ、1900年代後半まで順調に発展を遂げてきました。
しかし、ピークの1996年を過ぎると紙の出版物の売上は減少し続け、特に雑誌の売上の落ち込みは業界の大きな課題となっています。市場の縮小に伴い、出版社や書店の数も年々減少しています。
(引用)https://www.nippan.co.jp/recruit/publishing_industry/current_status.html
出版物を販売してくれる書店数も減っています。
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※グラフの2017年は5月1日現在の数字
※本部や営業所、外商のみの書店を含む。
※2016年は、大阪屋と栗田出版販売の経営統合、太洋社の破産など、総合取次再編の動きがあったことで集計できず。
全体として縮小傾向のなかで、実際出版社の人たちはどんな日常を送っているのか。私の場合をお伝えします。
私が働いていた出版社の日常
会議
基本的にお通夜のような状態です。積極的に意見を言えるような空気など微塵もありません。書籍の軸がない状態ながらも、売り上げは毎月上げなればいけないため、常にピリピリしていました。
さらに、編集部のトップがほとんど人に強くものを言えず、営業の言いなりになっていたことも原因かもしれません。
そのため会議では、手札がない状態で営業に「良いの持ってこい」と言われます。必死で調べてプレゼンをしたらしたで電卓を叩き「ないね、はい次」とだけ言って終わることも珍しくありません。
編集部の上司ももちろんそれに従うので、どんなに圧力をかけられても守ってくれる人なんていないし、もちろん「守ってもらう」みたいな考えもすぐに無駄だとわかりました。
企画も、安易に流行に乗っかることぐらいしか浮かばず、全くメッセージ性を欠いた思考回路になってしまいます。
例)
- ビットコインすごいらしいじゃん!はやいうちに乗っとこ
- 〇〇引退するっぽくない?名言集でも出す?
- 「なぞりがき」とか編集費安く済みそうだから企画立てよー
こういう人しかいないので、私もときに感覚が麻痺しそうになりました。
でも、結果自分たちも苦しむことになります。これまで話したことも含めた悪循環の流れはこうです。
- 一度売れたら息が長い書籍を作る基盤が会社にない
- でも売り上げは毎月立てなきゃいけない
- 手っ取り早く稼げる(ように思える)ムックを作る
- でも失敗はできないから予算を下げてコスト削減
- 気持ちよく仕事ができるギャラをデザイナーさんやライターさんに払えない
- 質が悪くなる(ギャラに見合った労力をかけたな、という仕上がり)
- 価値の低い本ができる
- 売れない&返品がはやい
- 赤字になる
地獄へ向かっているとしか思えません。
メンタル
このような状態で働いている人たちはどういうモチベーションだったのかというと、年代によって違いがあります。
20代の人たちはもともと本や書くことが好きで、これからこの業界でがんばっていきたい!というモチベーションでがんばっていました。理不尽なこともたくさんあるけれど、これが「糧」となると信じて粘り強く仕事に励んでいます。
30代は、そもそもあまりいません。
40代が一番多く、結婚している人やポストを与えられた人たちが残っています。プライドが高い人たちは言いませんが、何人かは「もうある程度てきとうにやってればいいんだよ」「子供もいるし今から新しいところに、っていうチャレンジは無理かな」と諦めているような感じです。
圧迫に耐えながら、でもお金を稼がなければいけないからやる。かといって若い頃のように徹夜はできない。自分が楽に仕事できる方法を探しながらやり過ごすようです。
でも「これが出版社のすべてじゃないみたい」だとTwitterで気づいた
Twitterをしていると、「これ私が作りました」と嬉しそうに話し、(ふざけるときはふざけるけれど)熱量を持って出版社の編集者として仕事をしている人を目にします。
それは、私がなれなかったけれど憧れていた「出版社の編集者像」でした。そして、その裏にある地道で泥臭い作業を勝手に思い浮かべて、なぜかワクワクしていまいます。
私はWebの編集者に変わったけれど、そんな人たちといつか仕事ができるくらいの魅力を手に入れたいと思っています。お通夜のような会議を毎週しているころは「紙媒体死んだわ」と思っていましたが、いつかまた紙に携わりたいと考えるようにもなってきました。
そのときのために、今日も明日も記事を更新します。今はだれも見ていないかもしれないけれど、いつか掘り起こしてもらえるように、コツコツと発信し続けていきます。
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